製造業ブログ

公開日:2026.5.27

地方の小さな印刷工場が、『攻守一体のDX』と『社会共生エコシステム』を形にするまでの軌跡【第2回】:【守りのDX】凄腕エンジニアとの共創。利益を見える化する『PSI VISION』

全国の中小製造業の経営者の皆様、いつもお読みいただきありがとうございます。岡山県瀬戸内市で事務用印刷や活版印刷などの特殊印刷を営む、藤井聡です。

前回の第1回では、私がかつて自作したオンプレミス型のシステムが限界を迎え、「正確な管理会計」が欠落したシステムでは従業員を幸せにできないという痛切な反省をお話ししました。そして、桑名のアサプリ・松岡社長から「時間付加価値」という経営哲学を学び、クラウド環境(FileMaker Server)ベースの統合基幹システムへと全面リニューアルする決意を固めたところまでをお伝えしました。

しかし、「理想の設計図」が頭の中にできたからといって、それをすぐに形にできるわけではありません。日々の業務に追われる10名規模の印刷会社にとって、高度な基幹システムを自社単独で開発し直すことは不可能に近かったのです。
第2回となる今回は、途方に暮れていた私が、いかにして「最高の開発パートナー」と巡り合い、システムを具現化していったのか。そして、開発を進める中で直面した「新たな壁」についてお話しします。

YouTubeで見つけた希望の光。洗練されたFileMakerの可能性

「時間付加価値をベースにした、中小製造業のためのオールインワンのクラウドシステムを作りたい」

その想いを胸に、私は信頼できる開発パートナーを探し始めました。プラットフォームとしては、これまで運用してきたFileMakerの柔軟性を活かしたいと考えていましたが、私自身の独学の能力だけでは、もはや思い描く高度なシステムは作れません。
そんなある日、情報収集のために見ていたYouTubeで、一本の動画に目が釘付けになりました。

それは、FileMaker開発の第一線で活躍されている「ライジングサン・システムコンサルティング」の岩佐氏が配信している動画でした。画面に映し出された岩佐氏の構築するFileMakerのシステムは、私が知っているものとは別次元でした。UI(ユーザーインターフェース)が極めて洗練されており、機能性も抜群。「FileMakerでここまで美しく、高度なシステムが組めるのか」と深い感銘を受けました。
そして、その動画の中で事例発表のゲストとして登壇していたのが、長野県でシステム開発を手がける株式会社リナークの西澤氏だったのです。

動画の中で語られる西澤氏の実績に、私は耳を疑いました。彼は長野の八光電機という企業で、もともとは生産管理の担当からスタートし、そこから現場の課題を解決するために岩佐さんの指導を受けながら自らFileMakerでシステムを構築。生産管理にとどまらず、在庫管理、さらには受注管理や営業管理に至るまで、製造業のあらゆるプロセスを「一手に」開発し、繋ぎ合わせてしまったというのです。

製造業のシステム開発において最も難しいのは、「現場のリアルな動き」と「システム上のデータ」をいかに乖離させずに連携させるかです。西澤氏はITベンダーとしての外側の視点ではなく、製造現場のド真ん中で、自ら汗をかきながらシステムを極限まで磨き上げた人物でした。

「私が求めていたのは、まさにこの人だ!」

直感的にそう確信した私は、西澤氏が独立に向けて動いていることをSNSで知ると、矢も盾もたまらず、すぐにダイレクトメッセージを送って連絡を取りました。これが、私たちの運命を大きく変える出会いとなりました。

製造業を知り尽くしたロジカルな開発者との「共創」

西澤氏とリモートでお話しする機会を得た私は、自分が抱えている現状の課題、アサプリ様で学んだ「時間付加価値」の考え方、そして「中小製造業の従業員を幸せにするためのクラウド基幹システムを作りたい」という熱意を、半ば前のめりに語りました。

西澤氏は、大変ロジカルで冷静な方でした。私のまだ抽象的な計画を静かに聞き入れ、その上で、システムの専門家として、また製造業の現場を知る実務家として、非常に的確で構造的なフィードバックを返してくれました。

彼との開発プロセスは、私にとって驚きの連続でした。
彼は単にFileMakerの技術力が高いだけでなく、「会計」や「製造」のプロセスについて極めて深い知識を持っていました。そのため、私が「こういう管理をしたい」と伝えると、それが会計上どのような仕訳処理に繋がるのか、製造現場の作業員にとってどれだけの入力負荷になるのかを瞬時に理解し、最適な解を提示してくれたのです。

私たちが開発したクラウドERP「PSI VISION」の構築において、西澤氏が最も手腕を発揮してくれたのが「設計上の線引き(どこまでやるか)」の判断でした。
システム開発において、経営者はつい「あれもこれも」と機能を盛り込みたがります。しかし、多機能すぎるシステムは現場の混乱を招き、結果的に誰も使わなくなってしまいます。

西澤氏は、「時間付加価値と管理会計の仕組みがうまく回る」という最大の目的から逆算し、「ここまではシステムで自動化するが、ここから先は運用でカバーする」という絶妙な線引きを都度行ってくれました。
この「最低限の実装で最大の効果を生む」というプロフェッショナルの判断があったからこそ、中小製造業の業務が一気通貫でこなせる、本当に現場で使えるシステムへと仕上がっていったのです。

開発の最終盤、各機能の連携や細かな調整の段階では、私の要望も多くなり、西澤氏には大変な苦労をおかけしてしまいました。それでも彼は最後まで妥協せず、期待以上の力を発揮してシステムを形にしてくれました。彼とのご縁、そして並走してくれたことへの感謝は言葉では言い尽くせません。

開発費の壁と「5社の同志」を探す旅

こうして、最高のパートナーを得て「PSI VISION」の開発は力強く前進し始めました。しかし、ここで経営者として避けては通れない現実的な問題が立ちはだかります。「開発費の捻出」です。
クラウド上で稼働する本格的な統合ERPをゼロから(あるいは大幅なリニューアルとして)構築するには、当然ながら相応の投資が必要になります。従業員10名の私たちが、単独で数千万円規模のシステム投資を回収するのは非常に困難です。
そこで私は、ある事業計画を立てました。
「このシステムは、私たちと同じように悩み、従業員の待遇を上げたいと願っている他の中小製造業にとっても、必ず救いになるはずだ。もし、このシステムに賛同して導入してくれる企業を『5社』見つけることができれば、開発コストは十分に分散され、全員にとって大きなコストメリットが出る設計にできる
自分たちのためだけでなく、同じ志を持つ企業がオールインワンで使えるパッケージとしてシステムを設計し、5社の同志を募ることで開発費を捻出しようと考えたのです。

立ちはだかる「共感の壁」と、次なる挑戦への布石

「5社の同志集め」は、順調な滑り出しを見せました。以前、私と一緒にアサプリ様が発表した経営勉強会に参加し、工場見学をともにした同業の経営者の方が、一番に導入を決めてくれたのです。彼もまた、時間付加価値の重要性を痛感しており、「藤井さんがそこまで作り込んだシステムならぜひ使いたい」と快諾してくれました。
「この調子なら、すぐに5社集まるだろう」と、私は少し甘く考えていました。しかし、現実はそう簡単ではありませんでした。

その後、知人や関係を通じていくつかの中小製造業の経営者へアプローチを試みましたが、なかなか首を縦に振ってもらえませんでした。その理由は、機能が不足しているからでも、価格が高いからでもありませんでした。

「時間付加価値(生産性)を高め、従業員の待遇向上を目指す」という経営の根本的な目標を深く共有している経営者でなければ、このシステムの本当の価値が刺さらなかったのです。

「PSI VISION」は、単なる業務効率化の便利ツールではありません。経営の数字をガラス張りにし、従業員と共に付加価値を追求するための「経営哲学の器」です。だからこそ、「とにかく今の作業だけ楽になればいい」「システムを入れることで従業員を管理・監視したい」といった考えの企業にはフィットしないのです。

想いを共有できる同志を集めなければならない。しかし、日々の業務をこなしながら、私が直接足を使って全国の経営者に会いに行き、経営理念から語り合ってシステムを販売するのは、リソース的に不可能でした。
「どうすれば、私たちの理念や時間付加価値の重要性を、全国の同じ志を持つ経営者に正しく届けることができるのだろうか?」

この同志集めの苦労と「伝えることの限界」が、後に私たちが取り組むWEBマーケティングの抜本的改革、そして自社開発サービス「AIコンテンツファクトリー」の誕生へと繋がる強力な原動力となっていきます。

次回予告:守りから攻めへ。元キーエンス開発者と磨いた「KPI管理」

長野の凄腕開発者・西澤氏とのタッグにより、「管理会計」と「現場の業務プロセス」がひとつに繋がったシステムは完成に近づいていました。これで社内の「守り」は盤石になります。
しかし、企業が従業員の待遇を持続的に上げていくためには、システムによる効率化(守り)だけでは不十分です。会社を成長させるための「攻めのDX(=売上を安定的に作り出す仕組み)」が絶対に必要でした。

次回(第3回)は、私たちがシステムのさらなる進化を目指し、BtoBビジネスで圧倒的な利益率と営業力を誇る「キーエンス」の仕組みを研究したエピソードをお話しします。
ご縁から、元キーエンスの開発者である高杉康成氏の指導を仰ぎ、「感覚の営業」から脱却して「行動数と受注に至るKPI」をシステムに組み込んでいった軌跡。
中小企業が「良いものを作れば売れる」という幻想から抜け出すための挑戦について綴ります。次回もぜひ、お付き合いください。

この記事の監修者

藤井 聡|代表取締役

業務印刷の未来を探求し、中小製造業向けのALL IN ONEクラウドERPやAIO向けLP制作ツールをリリース。2019年に社内の事務職ゼロを達成し、クラウド実践大賞岡山大会で発表。京セラの稲盛和夫氏とゲーム作家の米光一成氏の手法を取り入れた会社の仕組みづくりを推進中。

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