製造業ブログ

公開日:2026.5.29

(最終回)地方の小さな印刷工場が、『攻守一体のDX』と『社会共生エコシステム』を形にするまでの軌跡【第5回】:【社会との共生】DXを社会インフラへ。就労支援とアナログの強靭性

全国の中小製造業の経営者の皆様、そして日々の経営課題と真摯に向き合い続ける皆様。これまでお読みいただき、本当にありがとうございます。岡山県瀬戸内市で事務用印刷や活版印刷などの特殊印刷を営む、フジイ印刷の藤井聡です。

いよいよ、この連載も最終回となります。
第1回での社長の「ひとり情シス」の限界から始まり、長野の開発者・西澤氏との『PSI VISION』の共創、元キーエンス高杉氏から学んだプロセスの可視化、そして前回は、人員の物理的な限界とAI検索の壁を突破するために生み出した『AIコンテンツファクトリー』の誕生までをお話ししてきました。

東京のクリエイター・金子氏の協力による商品撮影ノウハウの習得とCMS構築、そして職人の「生の声」をAIが自動で高品質な営業資産に変換する仕組みによって、私たちは自社でWebサイトを育て、全国から質の高い引き合いを獲得できる環境を整えました。

社内の「守り(管理会計)」と「攻め(Web集客)」のDXが両輪として回り始めたことで、かつて経常損失10%というどん底にいた私たちは、ついに2025年度、売上規模を維持したまま確実な黒字化を達成する見込みとなりました。システムが利益を見える化し、従業員全員が「時間付加価値」を意識して自律的に動く組織へと生まれ変わった結果です。

しかし、私たちの歩みはここで終わりではありません。自社のシステムが整い、利益が出るようになったからこそ、私たちはこの仕組みを全国の同じように悩む中小企業へ提供し、さらには「社会への貢献」へと繋げていく未来を描いています。

他社展開を見据えた「運用の壁」と、nextwelとのパートナーシップ


私たちが実証を重ねてきた『PSI VISION』や『AIコンテンツファクトリー』は、中小企業の経営や情報発信を劇的に効率化するシステムです。しかし、これらの優れたシステムを他社へ提供していくにあたり、どうしても乗り越えなければならない壁がありました。それが「運用サポート体制」の確保です。

他社へサービスを導入したとき、日々のAIのデータ投入やWebサイトの入稿といった運用のサポート、あるいはシステムの初期設定やトラブルに対応する一次サポートを、一体誰が担うのか。従業員10人の私たちのリソースだけで、全国のお客様への手厚いサポート体制を維持し続けるのには、どうしても限界があります。
この運用リソースの課題を解決し、同時に社会的な付加価値を生み出すために、私たちは新たなエコシステムの構築に乗り出しました。それが、福井県でDX福祉施設を運営する「nextwel(ネクストウェル)」の日野氏とのパートナーシップです。

nextwelでは、障害や様々な事情により一般的な就労が困難な方々が、ITスキルを身につけて社会で活躍することを目指しています。私たちは、今後これら2つのサービスを他社へ展開した際に発生する、AIコンテンツファクトリーの運用や『PSI VISION』の一次サポート(ヘルプデスクや設定代行など)業務を、彼らに委託する体制を構築することにしました。

これは単なるサポートの外部委託ではありません。施設の方々にとっては、最先端の生成AIやクラウドERPの運用に関わる、極めて付加価値の高いデジタル業務を経験し、正当な対価を得る「就労支援」となります。一方で、システムを導入してくださる全国の中小企業にとっては、人手不足を心配することなく、安定した運用サポートを安価に受けられるという強力なメリットが生まれます。

自社の事業を成長させるためのDX投資が、そのまま福祉施設の就労支援という「ESG(環境・社会・ガバナンス)」の取り組みに直結する。

この「社会との共生」のエコシステムが見えたとき、私は経営者として、これまでにない深い喜びと誇りを感じました。この取り組みは、地元の中国銀行のコンサルティング部門や、富士フイルム様といった大企業からも高い関心をいただけるまでに広がっています。

共創で広げる販売チャネル。地方印刷会社やコンサルタント様との連携


さらに、これらのサービスを本当に必要としている全国の中小製造業へ届けるために、私たちは独自の販売チャネルの開拓を進めています。
私たちのような地方の小さな印刷会社が、単独で全国の製造業へアプローチしていくのには限界があります。そこで私たちは、同じように地域に密着し、中小製造業との深いビジネスの接点を持っている「地方の印刷会社」や「地方の経営コンサルタント」の皆様をパートナーとしてお迎えするルートを設けました。

地方の印刷会社は、日頃から地元の製造業から伝票やパンフレットの印刷を請け負っており、顧客の業務フローや悩みを誰よりも熟知しています。しかし、印刷市場の縮小に伴い、自社としても新たな付加価値(デジタルの武器)を求めています。また、地域のコンサルタント様も、クライアントの生産性向上を具現化するための実践的なツールを必要としています。

彼らが当社の『PSI VISION』や『AIコンテンツファクトリー』を地域の顧客へ提案・提供していく。これにより、パートナー企業にとっては価格競争からの脱却と新たな収益源の確保に繋がり、導入する製造業にとっては信頼できる地元のパートナーからDX支援を受けられるという、強力な「三方よし」のチャネルが広がっていく計画です。

デジタルを極めるからこそ備える、アナログな強靭性への挑戦


こうしてシステムやAIを活用した他社展開と効率化を突き詰めていく一方で、私たちはデジタル化の「弱点」にもはっきりと気づくことになりました。デジタルは極めて便利ですが、万が一の大規模な自然災害やサイバー攻撃で通信インフラが遮断されれば、一瞬にしてすべての業務が停止してしまいます。企業が持続していくためには、効率を追求する「デジタル」だけでなく、不測の事態に耐えうるアナログな「強靭性(レジリエンス)」が絶対に不可欠です。

実は、私たちは平成16年の台風で、工場が床上80cmの浸水被害に遭うという過酷な経験をしています。海水混じりの泥水に浸かった機械を前に感じた無力感と、それでも会社を立て直さなければならないという切迫感は、今でも忘れることができないと当時を知る社員から聞いています。

「災害を経験した私たちだからこそ、デジタルが止まった最悪の事態でも企業を守るための、アナログな『備え』を形にできるのではないか」

この強い想いから、私たちは現在、アナログの強みを生かしたBCP(事業継続計画)対応のシリアスゲーム『町工場サバイバル』の開発を進めています。ゲームデザインの監修には、2020年に『むちゃぶりノート』を共同開発した『ぷよぷよ』などの作者として知られるゲーム作家の米光一成氏をお迎えしています。

このツールは、大規模災害で会社のデジタルインフラがすべて失われた状況を想定し、参加者がアナログの伝票とボードを使って、手書きでキャッシュフローや業務を管理しながら会社を再建していくプロセスを体験するものです。平時は「業務フローと資金繰り」を楽しく学ぶ研修ツールとして、そして有事の際には実際に業務を回すための「手書き伝票キット」として機能することを目指し、現在、実用化に向けて開発に全力を注いでいます。

デジタルとアナログの両輪で社会を支える「オペレーションツール企業」へ

思えば、すべては8年前、私が独学で開発したシステムでサーバーが止まり、営業先から青ざめて会社に車を飛ばした「あの日」から始まりました。
「なんとかして会社を良くしたい」「従業員に正確な利益を還元し、彼らを幸せにしたい」。その一心でもがき、アサプリ松岡社長から「時間付加価値」を教わり、長野の西澤氏、レイアップの光田氏、クリエイターの金子氏、そして岡山県産業振興財団様など、数え切れないほど多くのご縁と専門知に支えられて、ここまで辿り着きました。
私たちが開発した『PSI VISION』も『AIコンテンツファクトリー』も、決して魔法の杖ではありません。そこにあるのは、「利益を可視化し、プロセスを科学し、全員の力で時間付加価値を高める」という真摯な経営哲学と、それを実現するための事実データの蓄積です。

現在、私たちは自社のこうした経験を活かし、単なる事務用印刷会社という枠を超え、中小企業の業務そのものを支える「オペレーションツール企業」としての歩みを進めています。

デジタル領域では、クラウドERPとAIを活用して中小企業の成長と賃金アップに貢献し、アナログ領域では特殊印刷のブランド価値向上や、現在開発中の『町工場サバイバル』による事業の持続性(BCP)を提供する。デジタルに依存しすぎるリスクに備え、アナログの印刷技術で有事のオペレーションを支える。これこそが、私たちが社会に提供できる独自の付加価値です。

終わりに:全国の中小企業経営者の皆様へ


DXの本質は、決して最新のITツールを導入することではありません。テクノロジーの力を使って、社長が孤独な抱え込みから解放され、従業員が誇りと笑顔を持って働き、そして会社が社会から必要とされ続ける仕組みを作ることです。
これまでの私たち道程が、今まさに様々な課題と向き合い、悩み奮闘されている経営者の方にとって、少しでも先を照らす光となれば、これ以上の喜びはありません。

変化の激しい時代ですが、製造業が持つ現場の技術と、それを支える人々の想いは、決して色褪せることはありません。デジタルの力を人のために正しく使いこなし、共に素晴らしい未来を切り拓きましょう。

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。皆様の会社の輝かしい未来を、心より応援しております。

この記事の監修者

藤井 聡|代表取締役

業務印刷の未来を探求し、中小製造業向けのALL IN ONEクラウドERPやAIO向けLP制作ツールをリリース。2019年に社内の事務職ゼロを達成し、クラウド実践大賞岡山大会で発表。京セラの稲盛和夫氏とゲーム作家の米光一成氏の手法を取り入れた会社の仕組みづくりを推進中。

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